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サイバー保険とは|企業のリスク移転をやさしく考える

2026-08-13入門

#サイバーセキュリティ#サイバー保険#ビジネス

「うちの会社もサイバー保険に入るべき?」——経営者や情報システム担当者から、こんな相談が増えています。ランサムウェア被害のニュースが後を絶たない今、火災保険や賠償責任保険と同じように、サイバーリスクも「保険で備える」対象になりつつあります。この記事では、サイバー保険の基本と、加入にあたって知っておきたいポイントをやさしく整理します。

この記事で分かること

  • サイバー保険は、インシデント対応費用・事業中断損失・第三者への賠償などをカバーする「リスク移転」の手段
  • 身代金の支払いや規制違反の罰金など、カバーされない・されにくい項目も多い
  • 保険に入るには一定のセキュリティ対策(MFAなど)が前提条件になりつつあり、保険とセキュリティ投資は表裏一体

対象読者:サイバー保険の導入を検討している経営者・情報システム担当者

執筆:ゆるふわセキュリティ編集部 最終更新日:2026年8月13日

なぜ今、サイバー保険が注目されているのか

サイバー保険さいばーほけん

サイバー攻撃や情報漏えいによって企業が被る損害を補償する保険商品。インシデント対応費用、事業中断による逸失利益、第三者からの損害賠償請求などを対象とすることが多く、「サイバーリスク保険」「サイバーセキュリティ保険」とも呼ばれます。

サイバー攻撃、特にランサムウェアによる被害は、システムを止めるだけでなく、復旧費用・調査費用・取引先への賠償・信用低下による売上減少など、想定以上に幅広いコストを企業にもたらします。どれだけ対策をしていても被害を完全にゼロにすることはできないため、「発生してしまった損害の金銭的な影響を、保険会社に移転する」という発想が広がっています。これがサイバー保険の基本的な役割です。

日本国内でも、KPMGジャパンが2024年8~10月に実施した調査によると、国内上場企業および売上400億円以上の未上場企業のうち57.9%がすでにサイバー保険に加入済みと回答しています1。さらに日本損害保険協会の調査では、「今後カバーしたいリスク」としてサイバーリスクを挙げた中小企業の割合が、前年の16.5%から32.8%へと倍増しており、大企業だけでなく中小企業でも関心が急速に高まっていることがわかります1

💡

保険は「防御」の代わりではない

サイバー保険は被害が起きた後の金銭的な影響をやわらげる仕組みであり、攻撃そのものを防ぐものではありません。あくまで、インシデント対応や日々のセキュリティ対策とセットで考えるものです。

カバーされること・されないこと

サイバー保険と一口に言っても、商品によって補償範囲は大きく異なります。契約前に「何が対象で、何が対象外か」を必ず確認する必要があります。

カバーされやすいこと

  • フォレンジック調査・原因究明などのインシデント対応費用
  • システム停止による事業中断損失(逸失利益)
  • コールセンター設置・お詫び状送付などの顧客対応費用
  • 第三者(取引先・顧客)への損害賠償責任
  • 弁護士費用・広報(PR)対応費用
  • 一部の規制対応費用(保険約款・法域による)
VS
⚠️

カバーされにくい・対象外になりやすいこと

  • ランサムウェアの身代金そのもの(多くの国内保険では対象外)
  • 外為法など制裁対象への支払いに関連する損害
  • 行政処分・課徴金など、法律上保険になじまない罰則的な性質の金銭
  • 重大な過失・未対応の既知の脆弱性に起因する被害(免責事由)
  • 国家関与が疑われる攻撃(戦争免責条項に該当する場合)
  • 契約前から発生していた既知のインシデント
⚠️

身代金の補償は要注意

「サイバー保険に入っていれば身代金を保険で払える」と誤解されがちですが、多くの日本の保険会社の商品では身代金の支払い自体は補償対象外です。また身代金の支払いは、送金先が経済制裁対象者に該当する場合には外為法などの法律に抵触するおそれもあり、支払うかどうかの判断自体が経営リスクになります。

規制上の罰金・課徴金についても、「懲罰的な性質の金銭は保険になじまない」という考え方から、補償対象になるかどうかは国や約款によって扱いが分かれます。契約時に必ず確認したいポイントです。

保険に入るには「対策」が前提になる

サイバー保険は、誰でも同じ条件で加入できるわけではありません。保険会社は契約前に企業のセキュリティ体制を審査し、一定の対策が実施されていることを条件にすることが一般的になっています。主なチェックポイントは次のようなものです。

保険会社が審査で見る主なポイント

🔑

多要素認証(MFA)

リモートアクセスや管理者権限に多要素認証を導入しているか

💾

バックアップ体制

オフラインを含む定期バックアップと復旧手順が整っているか

🛡️

EDR・監視体制

端末の異常挙動を検知するEDRなどの仕組みがあるか

📋

インシデント対応計画

対応手順・連絡体制があらかじめ文書化されているか

🎓

従業員教育

フィッシング訓練など、人への教育が継続されているか

これらの項目は保険会社ごとに設問票(アンケート)の形で確認され、対策が不十分だと「加入できない」「保険料が高くなる」「特定の被害(ランサムウェアなど)が補償の対象外・上限が低くなる」といった形で反映されます。つまり、セキュリティ対策への投資はそのまま保険料や補償範囲に跳ね返る、という関係になっているのです。この点はセキュリティ投資のROIを考えるうえでも重要な視点です。

🌱

第三者認証が評価されることも

ISO27001などの情報セキュリティ認証を取得している企業は、審査で有利に評価されたり、保険料の割引につながったりするケースもあります。認証取得そのものが目的ではありませんが、対策状況を客観的に示す材料として役立ちます。

サイバー保険は「リスク管理の一部」でしかない

ここが最も誤解されやすいポイントです。サイバー保険は、リスクをゼロにする魔法の契約ではなく、リスクマネジメント全体のうちの「移転(Transfer)」という一つの手段にすぎません。一般的にリスクへの対応は、次の4つの組み合わせで考えられます。

対応方法内容サイバー保険との関係
低減(Mitigate)技術・運用対策でリスクの発生確率や影響を下げる保険加入の前提条件になる
回避(Avoid)リスクの原因となる活動自体をやめる保険ではカバーされない領域
移転(Transfer)保険などで金銭的な影響を第三者に移すサイバー保険が担う役割
保有(Accept)小さなリスクは許容し、自社で対応する免責金額・自己負担部分に該当

サイバー保険だけに頼り、インシデント対応体制の整備や、サプライチェーン全体のセキュリティへの配慮を怠ってしまうと、保険金が下りても事業そのものが立ち直れない、あるいは審査で保険に加入できないという事態になりかねません。保険は「最後の備え」であり、まず取り組むべきは基本的なサイバーセキュリティ対策であることを忘れないようにしましょう。

世界と日本の市場動向

🌍

約163億ドル

2025年の世界サイバー保険市場(総保険料)

📈

10%超

2030年までの年平均成長率見通し

🇯🇵

57.9%

国内大企業のサイバー保険加入率(2024年調査)

🏢

32.8%

サイバーリスクを『今後カバーしたい』とした中小企業の割合

Munich Reの調査では、世界のサイバー保険市場(総保険料ベース)は2024年の約153億ドルから2025年には約163億ドルへ拡大し、2030年までに320億ドル超まで倍増する見通しとされています。ただし依然として北米が世界の保険料の約69%を占めるなど、地域偏在も大きいのが実情です2。日本国内でも大企業を中心に加入が進む一方、中小企業ではまだこれからという段階であり、今後の伸びしろが大きい分野といえます。

まとめ

  • サイバー保険は、インシデント対応費用・事業中断損失・第三者賠償などをカバーする「リスク移転」の手段
  • 身代金そのものや行政罰、国家関与が疑われる攻撃などは対象外になりやすく、契約内容の確認が欠かせない
  • 保険に加入するにはMFA・バックアップ・インシデント対応計画などの対策が前提条件となりつつある
  • 保険はセキュリティ対策の「代わり」ではなく、対策とセットで機能する「最後の備え」

もう少し詳しく(背景)

サイバー保険の歴史はまだ浅く、契約条件は今も進化し続けています。象徴的な出来事の一つが、製薬大手Merck社が2017年の「NotPetya」攻撃で受けた約14億ドルの損害をめぐる保険金請求です。保険会社側は「国家が関与した攻撃は補償対象外」とする戦争免責条項(war exclusion)を根拠に支払いを拒否しましたが、長期の法廷闘争の末、2024年にMerck社に有利な形で和解が成立しました3。この事件をきっかけに、多くの保険会社が「サイバー攻撃における戦争免責条項」の文言をより明確化する動きが進んでいます。契約書の細かな条項一つで補償の有無が変わりうることを示す、業界にとって重要な教訓となりました。

日本国内では、経済産業省・IPAが「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」を通じて、経営者に対しリスクの「識別・防御・検知・対応・復旧」に加えて「リスク移転(保険の活用を含む)」を経営課題として位置づけるよう促しています4。保険はコンプライアンス上の「おまけ」ではなく、経営判断の一部として扱われるようになってきているのです。サイバーセキュリティ全体の基礎はサイバーセキュリティとは?でも解説しています。

参考資料・出典

ゆるふわポータルでは、一次情報・公的資料にもとづき、専門用語をできるだけやさしく翻訳することを心がけています。内容に誤りや古い情報がある場合は、お問い合わせからご連絡ください。

執筆:ゆるふわセキュリティ編集部 最終更新日:2026年8月13日

Footnotes

  1. KPMGジャパンの2024年8~10月調査(国内上場企業・売上400億円以上の未上場企業対象)および日本損害保険協会2024年11月調査の数値。詳細は「大企業の約6割がサイバー保険に加入している現状」(サイバーセキュリティ情報局)を参照。 2

  2. Munich Re「Cyber Insurance: Risks and Trends 2025」「Global Cyber Risk and Insurance Survey 2026」による世界市場規模・成長率の推計値。

  3. Merck社のNotPetya被害をめぐる保険金請求訴訟と2024年の和解について。詳細はInsurance Journal「Merck Settles Coverage Dispute With Insurers Over War Exclusion in NotPetya Attack」を参照。

  4. 経済産業省・IPA「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver3.0」における、リスク移転(保険活用を含む)の位置づけについて。

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